2012年10月24日水曜日

『草原の椅子』宮本 輝

「映画化決定!」の帯に目をとめて、久々に宮本輝作品を読んだ。「草原の椅子」だ。「泥の河」や「優駿」他、名作が多数あるが、私が一番好きなのは「森のなかの海」。もう随分前に読んだ作品なので、ディティールは忘れてしまったが、主人公の主婦は阪神大震災で家を失う。地震直後に、夫は愛人の元へ。離婚した主人公は、学生時代に知り合った老婦人から、奥飛騨の広大な森と山荘を相続し、息子二人と移り住む。森のなかで暮らしながら、再生していくお話。
 「草原の椅子」は、離婚し娘と二人暮らしの50歳のカメラメーカー営業次長と、カメラ量販店の社長の友情を軸に、虐待されて育った5歳児や、営業次長が一目ぼれしてししまった女性が絡んで話が進む。メインテーマは「人の幸せとは何か?」ということ。
 50歳の男二人は、「世界最後の桃源郷」と呼ばれる、パキスタンのフンザに旅することを計画していたのだが、その旅に一目ぼれ女性と5歳児が同行することに。タクラマカン砂漠に立ち、フンザを到着した一行が、それぞれに感じたことは・・・
 ぐっと話に引き込まれて、いつもの倍のスピードで一気に読破してしまった。そして、改めて幸せってなんだろうと考え、自分の人生を振り返り、今後どう生きていこうかとか思う。


 あとがきの中で、「この国の、ありとあらゆる事柄に腹が立ち。為政者や役人たちだけでなく、電車のなかで隣り合わせた行きずりの人や、どこかの居酒屋で近くに座った客や、道ですれちがっただけの若者、はては公園で遊んでいる幼児たちにさえ、憎しみの目を向けてしまう自分に、自分であきれたことが幾度もあった」とあるように、作者のこの国に対する絶望ぶりが伝わってくる。しかし、そんななかで「幸せとは何か」を問うている作品である。